ナショナルトラスト  

 

定年退職後雇ってもらっている体育館は大きな公園の中にあって、
館の側になだらかな勾配を利用した三面張りの小川が設けてある。

園内で大きな催しがあると、係りの者が、水道栓をひねる。

と、小川に水が流れ出す。

みせかけだけのセセラギが現出する。

水道水だ。流し放なしじゃない。
受け口があって水は機械に吸い込まれ、グル~と配管の中を遡って、また最初から流れだす。

 

施設も古くなってきた。よくみると小川のあちこちにツギハギがある。
阪神淡路大震災の影響だろうか、勾配も設計当時とは違ってきたようだ。水が計算通り流れない。

催しが終わると、水道栓をひねって水を止める。途中に水が溜まったままで流れきらない箇所がある。
今年は雨がよく降った。
通常なら全部日照りで乾くはずの小川が、下流の吸い込み口あたりで乾ききらず、
常にメダカが泳げる程度の潤いができていた。

だれが放したのか、メダカがここに繁殖し群れ泳いでいる。

ゲンゴロウや、水スマシも遊んでいる。水草もある。

 

いつも、だれかが、この水溜りを覗き込んでいる。

「メダカや、メダカや!」と、感動するのは、おじいさん。

若いおかぁさんや子供等は、気に掛けることもない。

「あぶないよ!」などと言って、おかぁさんは、子供を水辺から引き離そうとする。

 

施設管理の係りに聞くと、

「あそこはだいぶ汚れがひどくなったから、近々、清掃せなあかん」と言う。

事実、水草が腐り、変な匂いのする箇所がある。
完全に水を抜き、風呂桶を洗うように川をこすり洗う予定だとか。

メダカはどうなるのだ?

「また水が溜まったら、だれかが放すのじゃないの」と、係りの女性。

 

水道栓の開閉で、完全に管理できる清潔な三面張り川が、好ましい川。

メダカはお呼びじゃない。

とはいいじょう、

「あそこは、ドジョウも居るンヨォ…」と、係りの女性。

メダカとドジョウが、清掃を邪魔しているようだ。

近々掃除すると聞かされてから、だいぶ経つが、まだ掃除は始まらない。

 

水道水でしか生きられない三面張りの小川があった

勾配が狂って出来た水溜り

幾つかの台風が大雨をもたらし水溜りを護った

だれが捨てたかメダカとドジョウ

ここがみずうみ、ここがふるさと

川掃除のおばさん立ち往生